道しるべ・トップ/あらすじ |
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■ 都会での準備篇 |
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Chapter0. としのはじめの家族会議 |
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Chapter1. プロローグ |
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Chapter2. 2008年のできごと |
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Chapter3. 2009年のできごと |
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■ 移住開始篇 |
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Chapter4. 2010年のできごと |
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かつての旅人が東山道を徒歩でたどることができたように、わたしたちの田舎への定住も、道なき道をいくというものではけしてありません。崖径(がけみち)もあれば、つよい向かい風に吹かれたりもしますが、たいがいはなだらかに起伏した道がうねりながら続いていきます。峠の茶店でひとやすみしながら、景色を愛で、旅の者同士、いい天気ですねぇ、などと挨拶をかけあって、一歩一歩進んでいきます。地元のみなさんの案内が支えとなり、先人が残してくれた一里塚がたよりになります。
それでもちょっと山道に入りますと、ときに迷路に入り込んでしまって、立ち往生することがありますし、あるはずの宿がみつからず途方にくれたりもします。はじめてのことばかりですので、まだ見ぬ明日への希望の光があり、また、その陰に不安がつきまといます。
わたしは、秋田駅から歩10分もかからない住宅街の真ん中で生まれ育ちました。さして広くもない庭での家庭菜園や養鶏は、ほんの幼いころの記憶に残っていますが、農業としての田畑や畜産とはまったく無縁です。妻も工務店の長女ですので同じです。
また、わたしが働き、妻は専業主婦として家庭を守るという役割分担で、三人の子どもを育て上げましたので、財を蓄え、余生のカントリーライフをゆったりと優雅に過ごす、ということからもほど遠いところにあります。
そういうふたりが田舎に移住し、里山生活を始めようとしています。
ひょっとしたら、かなり無謀なことをしようとしているのかも知れません。
ぎゃくに里山の暮らしは、人間の根源的な生き方ですから、五体満足でお天道様さえ上ってくれれば、額に汗してわたしたちにでもやっていけるものかも知れません。
ここでは、わたしたちの定住への歩みの記録をおりおりに束ねてみることにします。
それが、おなじようなことを考え、挑戦してみようとしているみなさんへの道標になるのなら嬉しいことですし、あるいは経験者の方から啓示をいただくきっかけになれば幸甚です。
寄ったさきざきの道草は、人生の還り道ならでは楽しさ、そんな旅でありたいものです。
わたしは昭和30年、秋田県秋田市生まれ、妻は同32年、青森県五所川原市生まれになります。ふたりとも高校を卒業して、首都圏に出て、ひょんなきっかけで知り合い、結婚したのは、わたしが25歳のときでした。翌年、長女が誕生し、一男二女に恵まれました。
わたしは会社員で、妻は専業主婦。3LDKの団地に住み、平日はあくせく働き、週末は買物やときおりのレジャーを楽しむという、ごくごく普通の家庭を築き、都市生活をそれなりに謳歌してきました。
40代なかばころから、定年後の生き様について、漠然としながら、「田舎暮らし」ということを意識するようになりました。具体的になにかを行動したわけではありませんが、そうして沈殿していく思いは、わたしのなかでやがて無視できない心の声になっていきました。
プロローグ篇では、わたしどもの半生を振り返りながら、田舎暮らしに気持ちが傾斜してくすがたを追ってみました。
田舎暮らしを始めるには、相応の準備も必要です。わたしたちの場合は、その準備に2年を費やし、この年はそれをスタートさせた年でした。
最初は、あまり焦点を絞らずに、秋田のどこかで棲みたい町を探そうという思いで、県北から県南を縦断しましたが、やがて、NPOふるさと回帰支援センタの紹介がきっかけとなり、山本郡三種町(みたねちょう)に、なんどか通うようになりました。
ただ、こうして具体的に活動をはじめることは、わたしたちが内面との会話、自問自答を繰り返すことにもなりました。
わたしたちが、ほんとうにやりたいことはなんなのだろう。
わたしたちは、ほんとうに長い都市生活を幕引きし、田舎暮らしを行うことができるのか。
そういう葛藤の一年になりました。
2008年篇では、なんどか秋田を往復しながら、わたしたち自身の心の揺れ動きをみつめ、やがて、やはり一歩を踏み出すことを決意した経緯について綴っています。
なんどかの秋田との往復のなかで、地元のNPOとも顔なじみになった、三種町が、移住先の第一候補となり、土地探しが始まりました。
在郷での土地探しは、なかなか一筋縄ではいきません。ほどなく、気に入った土地がみつかり、譲渡の交渉がはじまりますが、長い期間、なんども足を運ぶことになりました。ついには譲り受けることに成功しましたが、荒れるにまかせた土地ですので、その整理にも大きな負荷がかかります。
いずれ、土地が決まり、仮住まい場所も決まり、新居の設計もスタートさせました。
こうして、移住の向けた最低限のことは果たせた2009年、そのできごとを記録しています。